こんにちは。
セルフフラワリングの奥山あきひろです!
今日は、先月おなじみの早稲田松竹という名画座で観た映画を紹介してみようと思います。
バルタザールどこへ行く(1966年フランス)
監督:ロベール・ブレッソン
出演:アンヌ・ヴィアゼムスキー
他の映画監督と違う独自の道を歩み続けたフランスの名匠ブレッソン監督の名作です。
2013年にイギリス映画協会が発表した過去の映画「オールタイムベスト100」で、21位にランキングされるような作品ですが、現在どこのTSUTAYAにも置いていないような悲しい現実。。
ずっと名画座で上映したら見るぞとチェックを入れていた一本ですので、今回やると知って胸が躍りました!!
目次
『バルタザールどこへ行く』あらすじ
この作品は一言で言うと、救いようのないお話と言えると思います。
バッドエンドに耐えられない方には、ちょっと難しいかもしれません。
逆に本物の映像作家が創った記録を、この目で体験するぞ的な好奇心をお持ちの方には、是非是非一度味わっていただきたい作品です!

(映画『バルタザールどこへ行く』より引用)
この作品の主人公は、ロバと少女。
悲惨な運命を辿る少女マリーを、物を言わぬ聖なるロバの瞳で映し出します。
簡単なあらすじからいきます。
ネタバレありなので、ご注意お願いいたします。
フランスの小さな村。
ジャックとマリーという小さな男の子と女の子が、小さな黒いロバを飼ってもらってバルタザールと名前をつけます。
とても可愛がっていたのですが、時が経つとバルタザールは別のところに売られてしまい、貧富の差があったジャックとマリーも、違う環境で違う運命を辿っています。
ところがそこにバルタザールが脱走して、マリーの元に帰って来ます。
愛しいバルタザールを恋人のように愛し始めるマリー。
しかしマリーはジャックの求婚を断り、村の不良少年ジェラールに抱かれ、誇り高き頑固な父親のせいで貧困になり、とうとう堕ちるところまで堕ちていきます。
一方バルタザールは、ジェラールから、他の飼い主へと売られながら放浪していき、愛するマリーを見守りながら昇天していきます。。
マリーの選択
はじめマリーはとても可愛く可憐で、聖なる少女のように目に映ります。
しかしどんどん彼女に悲惨な運命を辿らせるブレッソンの意図にどのようなものがあったのでしょうか?
ぼくが感じたポイントは、マリーがジェラールに抱かれるシーンです。
マリーが手放したバルタザールを手に入れたジェラールは、バルタザールのしっぽに火をつけるなど、むごたらしいいたずらをしています。
そこに自動車で通りかかったマリーが、バルタザールを助けようとするのですが、本気でなんとしてでも助けようとしません。
さらにジェラールに追い回され、ちょっとの抵抗の後、抱かれてしまいます。
その後自らの意志でジェラールに会いにいくようになったマリーの決断から見て、「犯された」のではなく「抱かれた」と表現してよいと思います。
マリーは自らの運命にあらがおうとしなかった。
そこにポイントがあると思って、そこを見る側がどう解釈するかによって、作品の意味が変わってくると思いました。

(映画『バルタザールどこへ行く』より引用)
確かにそれまでの語られていない行間を読み取ると、そのような選択をしても仕方ないほどの、辛い生活があったのではないかと思います。
しかし厳しい言い方をすると、その生活から抜け出す道をどうしようもない青年ジェラールにゆだねてしまった。
「わたしなんて。。」と聞こえそうな行動がいくつも見えます。
小さな村の、小さな人間関係しか知らないマリーの環境からすると、耐えることができず「そうするしかなかった」というエクスキューズがあると思います。
ぼくの気持ちも「仕方なかった」「でもあらがえた」「あらがえたならば絶対に道は好転していた」と思わざるを得ない複雑な気持ちを味わいました。
ブレッソンは無音の映画を創るイメージがあったのですが、効果的にシューベルトが使われていたのに驚きました。
シューベルトが効果的に心に突き刺さります。
物を言わぬバルタザールの瞳
あんなに可愛がっていたバルタザールを見向きもしなくなるマリーに、心が痛かったです。
それでも純粋なロバであるバルタザールは、どんなに人間にむごたらしい扱いを受けようとも生き抜きます。
最後にバルタザールの心にあった思いはどのようなものだったのでしょうか?
犬のように、楽しく幸せだった過去の思い出だけがそこにあったのかもしれません。
それとも恐らくブレッソンが意図していた受難の後のキリストのように、この世を去っていったのもかもしれません。
それにしても本当に本当に、たまらなくかわいく素晴らしいロバでした。

(映画『バルタザールどこへ行く』より引用)
映画史上ロバが主人公の映画も、あまりないと思います。
虚しい人間たちの生き様を見届けて、昇天したバルタザール。
ぼくが中学の時飼っていた黒い犬ブルートを思い出さずにはいられません。。
とても心に残る作品でした。
同時上映で上映されたのが、その次の年にブレッソンが創った「少女ムシェット」でした。
こちらも同じく堕ちていく少女を描いた作品です。
それでもぼくがムシェットではなく、バルタザールを選択した理由は、ムシェットが我が強く欲望も強い少女なのに対し、バルタザールが純粋なロバだったからでしょう。
ブレッソンが最高のモデルを手に入れたというようなことがポスターに書かれていましたが、人間では表現できない聖なる視点を、素晴らしく描いた一作でした。